アスリート経験を活かすセカンドキャリアの軸設定ガイド
プロスポーツの世界を引退された後、セカンドキャリアとして新たな一歩を踏み出されていることと存じます。スポーツ関連のお仕事に就かれている方も多いかと思いますが、中にはキャリアの安定性や将来性に不安を感じ、別の道を模索されている方もいらっしゃるかもしれません。数多ある選択肢の中で、ご自身が本当に納得できるキャリアを構築するためには、「キャリアの軸」を見つけることが非常に重要になります。
この軸が定まらないと、情報収集に時間がかかりすぎたり、魅力的に見える様々な選択肢の間で迷いが生じたりする可能性があります。本記事では、元アスリートであるという貴方のユニークな経験を活かしながら、セカンドキャリアにおけるご自身の「軸」を設定するための具体的なステップについて解説します。
キャリアの「軸」とは何か
キャリアの「軸」とは、働く上でご自身が最も大切にしたい価値観、興味、強み、そして譲れない条件などを総合的に指すものです。これは、単に「どんな仕事に就きたいか」という職種名や業界名だけを指すものではありません。
例えば、「人々の健康増進に貢献したい」という目的意識、「困難な目標に向かって計画的に努力すること」という強み、「チームで協働すること」という働き方の好み、「特定の専門スキルを深めること」という成長への意欲などが複合的に組み合わさったものです。
アスリート時代には、「パフォーマンス向上」「勝利」「目標達成」といった明確な軸があったかもしれません。セカンドキャリアにおいても、このようなご自身の中心となる羅針盤を持つことで、無数の選択肢の中から最適な道を選び取りやすくなります。
アスリート経験を活かした軸設定のステップ
キャリアの軸を見つけるプロセスは、多くの場合、自己分析から始まります。ご自身の内面と向き合い、過去の経験を棚卸し、将来への希望や関心を探求していく作業です。元アスリートである貴方には、ここで活かせる独自の視点があります。
ステップ1:アスリート経験の徹底的な棚卸し
まずは、プロアスリートとしての歩みを振り返ってみましょう。単に成績やタイトルだけでなく、以下の点に焦点を当ててみてください。
- 目標設定と達成のプロセス: どのような目標を設定し、それに対してどのように計画を立て、実行し、困難を乗り越えて達成してきたか。その過程で楽しさややりがいを感じたのはどのような時か。
- 日々の練習や準備: どのようなトレーニングやコンディショニングを日常的に行っていたか。その中で培われたストイックさ、継続力、自己管理能力、分析力などは何か。
- チームでの役割と協働: チームスポーツであれば、チーム内での自身の役割、チームメイトとのコミュニケーション、衝突や課題をどのように解決してきたか。リーダーシップやフォロワーシップ、傾聴力などが考えられます。
- プレッシャーへの対処: 大舞台でのプレッシャーや怪我、スランプなどにどのように向き合い、乗り越えてきたか。メンタルの強さ、レジリエンス(回復力)などが挙げられます。
- 指導者やメンターとの関係: 誰から学び、どのようなフィードバックを受け、それをどう活かしてきたか。素直さ、学習意欲などが関係します。
- ファンや関係者との交流: どのようなコミュニケーションを取り、どのような影響を与え、あるいは受けてきたか。コミュニケーション能力、傾聴力、共感力などが考えられます。
これらの経験には、ビジネスの世界で活かせる普遍的なスキルや強み、そして貴方の価値観が凝縮されています。具体的なエピソードとともに書き出してみることで、漠然としていた自身の特性がクリアになります。
ステップ2:働く上での価値観・興味・関心の明確化
次に、アスリート経験から一度離れて、働くこと全般に対するご自身の価値観や興味・関心を探ります。
- 働く上で最も大切にしたいことは何か? (例: 社会貢献、自己成長、安定、収入、働きがい、ワークライフバランス、新しいことへの挑戦、専門性の追求など)
- どのような活動に時間やエネルギーを費やすのが好きか? (仕事に限らず、プライベートでの活動も含めて)
- どのような業界や分野、職種に興味があるか? なぜ興味を持ったのか? (具体的な企業名や事業内容を調べるのも良いでしょう)
- どのような人たちと一緒に働きたいか? (例: 高い目標を持つ人、チームワークを重視する人、新しいアイデアを歓迎する人など)
- どのような働き方を理想とするか? (例: オフィスワーク、リモートワーク、裁量権がある、定時で働く、出張が多いなど)
- これまでの人生で、どのような瞬間に「充実している」「楽しい」「貢献できた」と感じたか? (仕事以外でも構いません)
これらの問いに対する答えを正直に探ることで、ご自身の「ありたい姿」や「動機」の源泉が見えてきます。
ステップ3:経験・価値観・興味の統合と「軸」の仮説設定
ステップ1で見出したアスリートとしての経験から得た強みやスキル、ステップ2で明確になった働く上での価値観や興味・関心を統合します。これらを組み合わせることで、ご自身のキャリアの「軸」となり得るいくつかの仮説が見えてくるはずです。
例えば: * アスリート時代の目標達成思考と、社会貢献への関心を組み合わせ、「教育分野で次世代の育成に貢献する」ことを軸とする。 * チームでの協働経験と、新しい技術への興味を組み合わせ、「IT企業でチームとしてプロダクト開発に携わる」ことを軸とする。 * 自身の経験から培ったメンタルの強さと、人々の健康への関心を組み合わせ、「ヘルスケア分野でメンタルサポートを提供する」ことを軸とする。
このように、ご自身のユニークなバックグラウンドと内面的な志向を結びつけることで、他の人にはない、貴方だけのキャリアの軸が見えてきます。
ステップ4:情報収集と検証
設定した軸の仮説に基づき、関連する業界や職種について具体的な情報収集を行います。
- 興味のある業界や企業のウェブサイトを調べる
- その業界で働く人の話を聞く(OB/OG訪問、異業種交流会など)
- 関連する書籍やニュースを読む
- 体験プログラムやセミナーに参加する
情報収集を通じて、「この軸は本当に自分に合っているか」「市場のニーズはあるか」「どのようなスキルが求められるか」などを検証します。仮説が修正されることも自然なプロセスです。場合によっては、複数の異なる軸の仮説を同時に検討しても良いでしょう。
軸が見つかったら
キャリアの軸が定まってきたら、それに沿った具体的な行動計画を立てることができます。必要なスキル習得のためにどのような学習をするか、どのような求人を探すか、どのような人脈を構築するかなど、目標達成に向けたステップが明確になります。
もし軸設定に迷う場合や、さらに深く自己理解を進めたい場合は、キャリア相談の専門家や、元アスリートのセカンドキャリアに詳しいメンターに相談することも有効な手段です。
まとめ
プロアスリートとして培われた経験は、他のビジネスパーソンにはない貴重な財産です。この経験を単なる過去の栄光としてではなく、セカンドキャリアを築くための強力な「強み」として捉え直し、ご自身の価値観や興味と結びつけることで、納得のいくキャリアの「軸」を見つけることができます。
セカンドキャリアは、これまでの競技生活とは異なる挑戦や不確実性も伴うかもしれません。しかし、アスリートとして困難に立ち向かい、目標を達成してきた経験は、この新しい挑戦においても必ず貴方を支えてくれるはずです。ご自身の内面とじっくり向き合い、納得のいくキャリアの軸を見つけ、輝かしいセカンドキャリアを構築されることを心から応援しています。