元アスリートのためのセカンドキャリア計画:目標達成思考を活かす具体的な立て方
セカンドキャリアを歩む中で、漠然とした不安や現在のキャリアに対する将来性の懸念を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。スポーツの世界で培った経験や能力は確かに貴重な財産ですが、それをどのように社会の別の分野で活かし、安定した、そして成長につながるキャリアを構築していくのか。この問いに対する答えを見つけるためには、計画的にセカンドキャリア形成に取り組むことが不可欠です。
特に、アスリートとして高い目標を設定し、それを達成するために計画を立て、実行してきた経験は、セカンドキャリアの設計において非常に強力な武器となります。ここでは、アスリートが持つ特有の「目標達成思考」を活かし、セカンドキャリアの計画を具体的に立てるためのステップをご紹介します。
アスリート時代の目標達成思考を振り返る
現役時代、皆さんはシーズン目標、試合ごとの目標、日々の練習目標など、様々なレベルで具体的な目標を設定していたことと思います。そして、その目標達成のために、年間計画、月間計画、週間計画、さらには日々の練習メニューに至るまで、詳細な計画を立て、PDCAサイクルを回しながら実行してきたはずです。
- 目標の明確化: 「何を」「いつまでに」「どのレベルで」達成するのかを具体的に設定しました。
- 現状分析と課題特定: 目標達成のために現在の自分に何が不足しているのかを客観的に分析しました。
- 計画立案: 課題克服と目標達成に向けた具体的な練習方法やトレーニング内容、スケジュールを立てました。
- 実行と進捗管理: 計画通りに実行し、定期的に進捗を確認しました。
- 評価と改善: 結果を評価し、次の計画に活かすための改善点を見つけました。
この一連のプロセスは、まさにビジネスの世界やその他の分野におけるプロジェクトマネジメントやキャリアプランニングそのものです。この経験を、セカンドキャリアの計画に意識的に応用することが重要です。
セカンドキャリア計画を立てる具体的なステップ
アスリート時代の目標達成思考を活かしながら、セカンドキャリアの計画を以下のステップで具体的に立ててみましょう。
ステップ1:自己分析 - 「何を大切にしたいか」「何ができるか」の明確化
まず、自分自身の内面と向き合うことから始めます。アスリートとしての経験はもちろん、引退後の経験も含めて、以下の点を深く掘り下げてみてください。
- 価値観: 仕事を通じて何を最も大切にしたいか(例: 人の役に立つ、新しいことを学ぶ、安定した収入を得る、自由な時間を持つなど)。
- 興味・関心: どのような分野や仕事内容に興味があるか。スポーツ関連以外で惹かれるものは何か。
- 強み・スキル: アスリートとして培った強み(例: 目標達成力、継続力、困難への立ち向かい方、チームワーク、規律正しさなど)や、引退後に得た知識・スキル(例: コーチング経験、広報活動、ビジネス知識など)。これらがビジネスシーンでどのように活かせるかを具体的に考えます。
- 弱み・課題: 逆に、これから伸ばす必要があるスキルや知識は何か。
- 経験: どのような経験をしてきて、そこから何を学び、どのような成果を出してきたか。
アスリートは自己分析のプロフェッショナルです。自身のパフォーマンスを常に分析し、改善点を見つけてきたように、キャリアにおいても客観的に自己を分析する力は非常に役立ちます。
ステップ2:目標設定 - 具体的な「なりたい姿」を描く
自己分析で得られた情報を基に、セカンドキャリアにおける目標を設定します。これもアスリート時代の目標設定と同様に、SMART原則(Specific: 具体的に、Measurable: 測定可能に、Achievable: 達成可能に、Relevant: 関連性を持って、Time-bound: 期限を設けて)を意識すると効果的です。
- 長期目標: 5年後、10年後にどのような分野で、どのような役割を担い、どのような状態になっていたいか。
- 中期目標: 長期目標達成のために、1年後、3年後にどのようなスキルを習得し、どのような経験を積んでいる必要があるか。
- 短期目標: 中期目標達成のために、直近3ヶ月、6ヶ月で何をするべきか(例: 特定の資格取得の学習を開始する、異業種交流会に参加する、特定の分野に関する書籍を3冊読むなど)。
「異業種で働く」「安定した収入を得る」といった漠然とした目標ではなく、「〇〇業界の△△職として、年収xxx万円を目指す」「〇〇に関する資格を1年以内に取得し、関連業務に携わる」のように、可能な限り具体的に設定することが重要です。
ステップ3:情報収集とギャップ分析 - 目標達成への道のりを知る
設定した目標に対して、現在の自分に何が足りないのか、どのような道のりを辿る必要があるのかを知るために情報収集を行います。
- 目標とする分野・職種に関する情報収集: どのようなスキルや経験が求められるのか、未経験者の採用状況はどうか、平均的なキャリアパスはどうかなどを調査します。企業の採用情報、業界のニュース、関連書籍などが情報源となります。
- 必要なスキル・資格に関する情報収集: 目標達成に必要なスキルや有利になる資格は何か、それらをどのように習得できるのか(スクール、オンライン学習、独学など)を調べます。
- キャリアパスに関する情報収集: 目標とする分野で活躍している人がどのようなキャリアを歩んできたのか、可能であればOB/OG訪問やカジュアル面談などを通じて直接話を聞くことも有効です。
アスリートは対戦相手や自身のコンディションに関する情報収集を怠りません。セカンドキャリアにおいても、外部環境や目標達成に必要な情報を積極的に集める姿勢が求められます。情報収集の結果、ステップ2で設定した目標や、ステップ1での自己分析に修正が必要となる場合もあります。
ステップ4:具体的な行動計画の策定 - 「いつまでに」「何をするか」を決める
情報収集とギャップ分析の結果を踏まえ、目標達成に向けた具体的な行動計画を立てます。これは、アスリートが練習メニューや試合スケジュールを組むのと同じプロセスです。
- 必要な行動項目のリストアップ: 目標達成のために行うべきことを全て書き出します(例: 〇〇の資格取得に向けた学習、△△企業のインターンシップ応募、□□に関するセミナー参加、異業種交流イベントへの参加、履歴書・職務経歴書の作成、面接対策など)。
- 優先順位とスケジューリング: リストアップした項目に優先順位をつけ、いつまでに何を行うかを具体的にスケジュールに落とし込みます。週ごと、月ごとの単位で計画を立てると、実行しやすくなります。
- 必要なリソースの確認: 計画実行のために必要な時間、費用、人脈などのリソースを確認します。
この段階で、アスリートが持つ「逆算思考」が役立ちます。最終的な目標地点から逆算して、「そのためにはいつまでにこれを達成する必要がある」「そのためには今週は何をすべきか」と具体的に考えることで、実行可能な計画を立てることができます。
ステップ5:実行と進捗管理・評価 - 計画を実行し、定期的に見直す
計画は立てるだけでなく、実行してこそ意味があります。計画通りに行動し、定期的に進捗を確認します。
- 計画の実行: 立てたスケジュールに従って、日々の行動を実行します。
- 進捗管理: 週に一度など、定期的に計画通りに進んでいるかを確認します。遅れている場合は、原因を分析します。
- 評価と改善: 四半期に一度、半年に一度など、ある程度の期間が経過したら、計画の進捗状況、計画自体の妥当性、自己分析や目標設定にズレがないかを評価します。必要に応じて計画を修正・改善します。
アスリートが試合結果や練習内容を常に評価し、次のトレーニングに活かすように、セカンドキャリアの計画も常に評価し、改善していく必要があります。計画通りに進まないことや、途中で新たな課題や可能性が見つかることは当然あります。その際、アスリートが持つ「レジリエンス(困難から立ち直る力)」や「柔軟性」を発揮し、計画を粘り強く見直しながら進むことが重要です。
まとめ
セカンドキャリアの形成は、アスリートとして取り組んできた「目標達成」というプロセスと多くの共通点があります。自己分析、目標設定、情報収集、計画立案、実行、評価、改善という一連のステップを、現役時代に培った目標達成思考を活かして丁寧に進めることで、漠然とした不安は具体的な行動計画へと変わり、キャリアの再構築に向けた道筋が見えてきます。
計画通りに進まない時も、アスリートとして経験してきた困難を乗り越える力を信じてください。定期的な計画の見直しと柔軟な対応を心がけながら、一歩ずつ着実にセカンドキャリアを歩んでいくことが、将来の安定と成長につながるでしょう。
この計画立案のプロセスを通じて、ご自身の可能性を最大限に引き出し、充実したセカンドキャリアを築かれることを願っています。